冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□97
「…い」

 ん?

 カイトは、一度まぶたに強い力をくわえた。

 目を閉じたまま、漂っている意識をとっつかまえようとしたのである。

「おはようございます…朝ご飯の用意が出来ました」

 がばっ!

 ベッドから飛び起きた。

 いつもよりも小さな声、弱い声。
 けれども、それがメイのものであることを、覚醒した途端に気づいたのだ。

 ばっと声の方を向くと、聞こえないはずだと納得した。

 ドアのすぐ側のところから、しかも向こう側からちょっとだけ覗き込むようにして呼びかけられていたのだから。

 焦点の合わせづらい起き抜けの目を細めて、何故そんなところにいるのかを観察しようかと思った次の時、ドアはパタンと閉ざされてしまった。

 彼女は、ダイニングの方に戻って行ってしまったのだ。

 カイトは、やりかけた目を細めるという動作を続けた。

 しかし、はっきり見えたのは閉ざされたドアで、鼓膜が遠ざかる音をわずかに拾うだけだった。

 いつもと同じ様子ではない。

 あんな遠巻きな起こし方をされるとは、思ってもみなかった。

 だが、彼の記憶に引っかかるものと言ったら、昨日遅く帰ってきたことくらいで。

 あの後は、グリルチキンというヤツを口の中に押し込んで、カイトは毛布をひっかぶって寝たのだった。

 泣いた目を一生懸命元に戻そうとするメイを、見ていられなかったのである。

 怒ってんのか?

 昨日の件について、そうカイトは解釈しようとした。

 しかし、違うように思えてしょうがなかった。

 いっそ、そうだったらどんなにいいか。

 彼女が、カイトに怒るほど対等になっているというのなら、こんなに苦しい思いを抱え込んでいる必要はないというのに。

 のろのろとベッドから起き出して用意を始める。

 答えの出ないメイの態度に、首をひねりながら。
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