冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「クソッ……!」

 しかし、聞こえたのは彼のそんなセリフ。

 また、彼は苛立っていた。

 メイは身動きもせずに、その声を聞く。

 バサッ、ギシギシッ。

 そうして。

 え?

 目を見開いた。

 いきなり、毛布が元に戻されて、ベッドから体重が消えたからである。

 びっくりして、慌てて寝返りを打った。
 カイトの方を見ようとしたのだ。

 彼は、何かを持ったままベッドから遠ざかるところだった。

 カイトは。

 着替えもしない身体で――そのままソファにひっくり返ったのだ。

 あれ?

 メイが、その事実の意味を考えようとした時。

 カイトの手が、持っていたリモコンのようなものを操作した。

 途端。

 真っ暗に――なる。

 いきなり暗くなったせいで、メイは何も目が利かなくなった。

 え?
 あ?
 何で?

 何で、彼はソファに転がったのだろう。電気が消えたのだろう。

 頭の中に、その疑問が駆け抜ける。

 ソファで――寝ちゃうの?

 チン!

 とりあえず出てきた答えに、自分でビックリしてしまう。

 ベッドに入ろうとしたのは事実だ。

 なのに、彼はそうせず、ソファに行ってしまった。

 そ、そんなの……ダメ!

 メイは、ガバッと起きあがった。

 見えないくせに、ソファの方をじっと見つめる。

「あ……あのっ!」

 この状況は、何か間違っている。

 メイじゃなくたって、それは分かった。

 間違い探しどころじゃない。間違いだらけだ。

 何で自分が、この広いベッドを占領しているのか。
 何で彼がソファで寝ようとしているのか。

「るせー……とっとと寝ろ!」

 しかし、間髪入れずに返ってきた言葉は、乱暴で言い放つようなものだった。

「え……でも……」

 寝ろって。
 寝ろ?
 寝る。
 寝れば。
 寝る時。
 寝よう。

 もしかして。

 寝ろって言ったのは――最初に、彼女にそう命令したのは。

『おやすみ』ってコトだったの?

 ドンガラガッシャーン。

 頭の中で、自分の考えていた全ての窓が打ち割られていくのを感じた。
< 45 / 911 >

この作品をシェア

pagetop