冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あっ!」

 その呼吸音のおかげか、声が生まれた。

 メイの驚いたものだった。

 はっと顔を上げると、彼女は席を立って慌てて近づいてくる。

 ようやく我に返ったのだろう。

「すみません!」

 謝るのは余計だけれども、とにかく白い指が彼から蛇を奪った。

 ホッとした。

 彼女は、カイトを避けたいワケではないと分かったからだ。

 一度全部解かれる。
 最初からやりなおしということなのだろう。

 青い蛇。

 そのブルー・スネークを笛で踊らせるように、メイはネクタイを結んでいく。

 けれども、いつもよりもおぼつかない指だった。
 一番最初に結んでもらった時のようなぎこちなさだ。

 一度なんかは、細い方のネクタイを手から落としてしまって、慌てて握り直すという失敗までついてきた。

 カイトから、彼女の表情は分からない。
 いつもよりも下を向く角度で結んでいるからだ。

 ムッとした。

 やっぱり、絶対におかしいからである。

 ネクタイを結ぶ時まで、こんな態度なんて。

 いや、結ぶ時だからこそ、カイトにとっては大事な時間だと思っているからこそ、余計に面白くなかったのである。

「何かあったのかよ?」

 だから。

 つい、ぼそっと出てしまった。

「えっ?」

 反射的に上に上げられた顔は―― ドキッ!

 カイトは、身体が妙な硬直をしたのに気づいた。

 メイは、真っ赤な顔をしていたのである。

 どこもかしこも真っ赤。

 一瞬、正常な思考が吹っ飛んだ彼ではあったけれども、次の瞬間にハッと現実に戻ってくる。

「おめー、まさか熱あんのか!?」

 驚いたカイトは、でかい手を彼女の額に押しつけたのだった。
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