冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●98
「はぁぁぁぁ…」

 メイは、地表にめりこんでしまうくらいに重いため息をついた。

 自己嫌悪どころの話ではなかったからである。

 あんなとんでもない夢を見て、カイトに普通に接することが出来なくなるなんて。
 あれじゃあ、何かありました、心配してくださいと言っているようなものだ。

 だから、その通りに彼に心配させてしまった。

 熱があるのか勘違いされたのは、きっと顔が真っ赤だったせい。

 ああ、もう。

 自分のバカさ加減に恥ずかしくて消えてしまいたくなる。

 メイは、パンパンと両方の頬を叩いた。

 気合いを入れ直そうと思ったのだ。

 とりあえず、あの場は『大丈夫です! 何でもありません!』の一点張りで通して、ネクタイをぎゅっと締めて送り出したのだ。

 いつもと違って力加減が出来なかったような気がするから、きつく締まったかもしれない。

 きっと今頃、窮屈で緩めているだろう。

 それも自己嫌悪だ。

 何で、あんな夢を見てしまったのか。

 そう思っても、夢とは罪のない子供の悪戯のようなもので、なかなか自分の言うことを聞かないものなのだ。

 はやく忘れよう。

 メイは、そう決心した。

 でなければ、もうカイトのネクタイを締めることは出来ないのではないかと思うのだ。

 毎回、あれを思い出してしまって――

 とりあえず、朝ご飯の後片づけをして、各部屋の掃除を始めようと思った。

 一度、部屋に着替えに戻る。

 あのジーンズをゴミ箱から拾った後、ちゃんと洗ったのだ。それにはきかえた。

 見つからないようにしなくちゃ。

 カイトはどうしても気に入らないようだったが、これはないと困るのである。

 特に、ハルコがこれから毎日来られるというワケではないし、それに、無理な角度で掃除をしてもらうワケにもいかなかった。

 きゅっと、メイは髪を一つに結んだ。

 そうして再び階段を降りて、まずは台所から仕事をしようと思った時―― 音がした。

 え?

 また違和感だ。
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