冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 電話だった。

 はっとそっちの方を見ると、シュウが住んでいる一階の廊下の方にそれがあるのが分かった。

 思えば、いままで電話が鳴ったのを見たこともなかった。

 ここの家に関わる人は、全員がケイタイを持っているようで。

 必要な電話は、全てそっちで行われているせいか、家庭用配線の方は静まり返っていたのである。

 そう言えば。

 メイは慌てて電話に近付いた。

 今度から、来られそうにない日とかは、ハルコが電話を入れると言っていたのだ。

 メイは、ケイタイを持っていない。

 だから、彼女がこの家の電話を鳴らしているのだろうと思った。
 本来なら、そろそろ来るハズの時間であったし。

「はい、もしもし」

 慌ててコードレスの電話を取って、次の瞬間に凍りつく。

 もしも。

 もしもだが、これがハルコでない人であったらどうしようかと、その時に気がついたからである。

 カイトやシュウのことを聞かれても、何も答えられそうになかった。

 まあ、その時は会社に行ってます、でいいのだろうが。

 一人でパニクっているメイの耳に、こう聞こえた。

『おはよう、私よ…ハルコ』

 ほぉっと胸をなで下ろした。

 よかった、と思ったのだ。

 やはり、予想通り電話をかけてきたのはハルコだったのである。

「おはようございます…やっぱり、ハルコさんでしたね」

 安心すると声が出てくる。

 やはり、この家に電話をかけてくる人はほとんどいないようだ。

 偉大なるケイタイのおかげである。

 今まで、もし自分が一人でいる時に電話が鳴ったらどうすればいいかなんて、考えたこともなかった。

 今回はハルコに言われていたから取れたのだが、もしそうでなければ、もしかしたら電話が鳴り終わるまで、遠巻きに見てしまったかもしれない。
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