冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「いえ…でも、会社にいらっしゃる間にできますから」

 小さく声を潜めてしまった。
 誰が聞いているワケでもないというのに。

『そう…カイトくんったら』

 また、笑みだ。

 当事者であるメイは、彼女のように余裕を持って笑えそうになかった。

『それじゃあ、明日も来られそうになかったら電話をするわね』

 ハルコがそう締めくくろうとするので、もう一度、無理をしないでください、こっちは大丈夫ですからと伝える。

『そんなのは分かっているのよ…でも、私が行かないとあなたが働いていると思われちゃうでしょ? それじゃあ、またね』

 最後のセリフがそれだった。

 困ったまま、メイは電話を切った。

 ふぅ。

 ため息をつく。

 コードレスフォンはまだ持った状態で。

 早く夢を忘れようとすればするほど、記憶が押し寄せてくるような気がするのだ。
 だが、いつまでもこんなところで突っ立っているワケにもいかない。

 メイは、仕事に戻ろうとした。

 が、また電話が鳴った。

「はい、もしもし?」

 言い忘れでもあったのかな?

 メイは、下ろしかけたコードレスフォンを握り直し、通話状態にする。

『カイトはいるか?』

 しかし。

 それは、ハルコではなかった。

 男の人の声である。

 ドキーン!!!!!

 メイは、心臓が飛び上がるほど驚いた。

 てっきり、ハルコだと思っていたのだ。
 なのに、全然知らない人である。

 彼のことを呼び捨てにするのだ。親しい間柄なのだろう。
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