冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あ、あの…会社に出勤されましたけど」

 あたふたしながらも、メイは答えた。

 本当に親しい人間ならケイタイ番号を知っているだろうし、どこに勤めているかくらいは知っているだろう。

 そこまで考えたワケではないが、とりあえず正直に答えることしか出来なかった。

 これ以上の、妙な言葉が来ないことを祈って。

『そうか、ならば会社に電話をしてみよう』

 しかし、電話の主はあっさり納得してくれたようである。

 メイは、ほっと胸をなで下ろした。

 そうなのだ。

 知らない電話は、こういう風にやりすごせばいいのである。
 そんなマニュアルを、胸の奥にそっと忍ばせながら。

『…ところで』

 しかし、電話は切れなかった。

 落ちついた強さのある声が、そう続けるのだ。

『ところで…君は誰だ?』

 ピキュイーン!

 そのセリフに、メイは完全に硬直してしまったのである。

 親しい間柄だからこそ、家にいるメンバーを知っているのだろう。
 そこに、聞き慣れない声の女がいるのである。

 聞かれても当然と言えば当然だ。

 そんな質問が来るとは思っていなかった。

 そして、自分が答えを持っていないことに、はっきりと気づいたのである。

 この家にとっての自分の立場は。

 何の―― 肩書きもなかった。

 本当に、彼女の立場を表す言葉はなかったのである。

 一番ふさわしいのは、『居候』かもしれない。

 けれども、それを相手に伝えると、かなり妙な意味合いに取られるだろう。
 男しかいない家に、若い女が居候している。

 怪しいどころの話ではない。

 もしも、自分がそういう風に答えて、カイトの方に何らかの迷惑がかかったら。

 一生懸命考えた。

「私は……」

 そうして――言った。
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