冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□99
 社長室は、白い靄がかかっていた。

 スッパスッパスッパ。

 カイトが、とめどなくタバコをふかし続けているからだ。
 会社に来ると、途端にタバコの虫になってしまうのである。

 悪い空気が立ちこめた部屋の中で、彼は次々に書類をめくっていた。

 速読が出来るというよりも、ナナメ読みをしているのだ。

 ほとんどの書類を作成したのはシュウで、彼のサインの入っている書類に関しては、ノーチェック状態である。

 シュウがこの会社を乗っ取ろうともくろんだら、きっと1日もかからないだろう。

 今日のカイトは、そのナナメ読み度がいつもよりも高かった。

 気になることが、頭を占有しているからである。

 困ったことに、最近いつも占有しているのはただ一人。

 このタバコの原因でもあった。

 会社に来るとタバコを吸うというのは、ひっくり返せば、彼女から離れればタバコが吸いたくなるということである。

 その証拠に、家ではほとんど吸っていない。
 自覚はカイトにはなかったけれども。

 彼女が――メイが、おかしい態度を取ったのだ。

 起こす時もそうだし、朝食の時も、ネクタイの時も。

 問いつめようとしたけれども、大丈夫だと言い含められて追い出された。

 あんな真っ赤な顔をして。

 熱があるのを隠しているのではないかと思うと、気が気ではなくなるのだ。

 隠しそうな性格だからである。

 その上、カイトが仕事に出ている時に、ゆっくり寝るような性格でもない。

 絶対に、今頃掃除をしているに違いないのだ。

 イラッ。

 それを思うと、またタバコを深く吸い込む。
 身体に悪い精神安定剤である。

『社長…』

 ブツッという音が鳴った後、秘書の声がフォンから聞こえてきた。

『お電話が入っております』

 彼女は、呼ばれない限りは入ってこない。

 カイトも入るなと言っているし、向こうも入りたくもないようだ。

 お互いの利害が一致している。

「誰だ」

 くわえタバコのまま、余りはっきりしない発音で聞いた。
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