冬うらら~猫と起爆スイッチ~

『M大の教授からですが…』

 秘書の声に、彼はぴたっと動きを止める。
 知っている名前の大学だったのだ。

 それもそのはず。

 カイトが中退し、ソウマやハルコやシュウが卒業した母校だった。

 忘れるはずがない。

 しかし、今更何の用なのか。

 ちゃんと中退手続きをしたかどうか、記憶が怪しかったところがあるので、その件についてだろうか。

「つなげ」

 不機嫌なまま書類を置いて、電話を取った。

「もしもし」

 タバコを、ほとんど隙間のない灰皿のフチに押しつけながら、深い息を吐いた。

『私だ…』

 ぴき。

 カイトは受話器を一度耳から離し、じっくり眺めてしまった。

 聞き覚えのある声だったのである。

 検索システムが頭の中を回り、余り嬉しくない相手の名前を引き出してきた。

『聞いているのか?』

 見つめた受話器から、またもあの声が流れる。
 ふぅっと息を吐きながら、カイトは耳に受話器を当てた。

「聞こえてるぜ」

 苦々しい声になるのは止められなかった。

 確かに相手はM大の教授だ。

 しかし、それは決して好きな相手ではないのだから。

 名前は。

『まさか、私を忘れたわけではあるまいな』

 こんなタカビーな声と古くさい言葉を使う教授は、おめーぐらいだよ、と内心で毒づく。

 名前は――アオイ教授。

 権威主義者の塊のような、次期学長候補間違いナシと言われている教授だ。

 本当になれるかどうか、ソウマが賭けようと言い出して、カイトは『寸前でダークホースにかっさらわれて、学長にはなれねー』という結果を出していた。

 まだ、次期学長を選出する事態にはなっていないので、賭の決着はついていない。
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