冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「何の用だ?」

 カイトの口調は、その次期学長様に向けるようなものではなかった。

 賭の対象にはしたけれども、彼にとっては鼻につくイヤなヤツでしかないのだ。

 何故、今更電話なんかしてくるのか、理解できなかった。

 シュウたちになら分かる。

 何しろ、彼らはちゃんと卒業しているのだ。

 しかし、中退の―― いわゆる、アオイにとっては挫折者扱いしてもおかしくない相手である自分に、電話がかかってきたのだ。

 同窓会のお知らせなんていう、トボケた内容でないことは分かっているが。

『会社の経営者ともあろうものが、そのような口のきき方をするなど! 世の中は、そんなに甘くないぞ!』

 またも、カイトは受話器から耳を離さなければならなくなる。

 電話であることを考えていない音量だったのだ。

「用がねぇなら切るぜ…会社の経営者は、教授みてーにヒマじゃねーからな」

 怒鳴らせっぱなしで終わるハズもなかった。

 昔からカイトは、彼を憤死寸前にまで追い込んでいた男だ。

 どうにも下賤なカイトに刃向かわれると、プライドに障るらしい。
 それがイヤなら、電話などかけてこなければいいのだ。

『せっかく、私がお前に素晴らしい見合い相手を紹介しようと思って電話したというのに、何ということだ!』

 わなわなと震えた声のアオイの声は、それで終わりだった。

 ガチャーン!!!!

 カイトが受話器を叩きつけたのである。

 くだらない内容どころではなかった。
 ふざけるにもホドがある。

 彼に、見合い相手を世話しようなどと思っていたのだ。あの頑固教授は。

 何度も言うが、シュウに話が来るなら分かる。

 まだ彼の方が、アオイには好かれていたハズだ。
 目立って刃向かいもしない男だった。

 決して、従属はしていなかったけれども。
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