冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「出てけ」

 にべもなく言った。

 彼の話は、もう一切したくなかったのである。

 忌々しい教授の名前も、ツラも思い出したくなかった。
 その上、何をフザケたか『見合い』と来たものだ。

 これ以上、カイトがキレない内に、おとなしく書類仕事をしている内に、出ていくのが得策だ。

「社長が、詳細も聞かれずに電話を切られたそうで、私の方に詳しい話が回って参りました。相手の方は…!」

 シャッッ!

 シュウは、黙らなかった。
 出てもいかなかった。

 その眼鏡の向こうの目が、驚いたのが分かった。

 当然だ。
 カイトは、一番上の書類をひっつかむなり、勢いよく二つに裂いたのだから。

「社長…」

 その所業に、シュウは眉を顰める。

 まだいやがる気か!

 シャッッ!

 カイトは二枚目の書類も裂いた。

 ようやく。

 シュウは、その件の話をするのが不可能だと分かったのだろう。

 ため息を一つついて、裂かれた書類を受け取ると、無言のまま出て行ったのだった。

 クソッ。

 残り全部裂いてしまえばよかったと思うくらいムカムカしながら、カイトはまず頭を冷やすことから始めなければならなかった。

 頭に来すぎて、全然書類の文字が目に入ってこないせいだ。

 何が見合いだ! 結婚だ!

 どいつもこいつもヌルい頭しやがって。

 シュウのロボットまで、何を言いやがる!


 おかげで―― 仕事は長引く一方だった。
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