冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□11
 コンピュータを置き去りに振り返る。

 ベッドの方を、だ。

 瞬間、先にベッドに入っていた彼女がぱっと動いた。

 カイトの方を見ていたのだろうか。

 慌てたような動きで、背中を向けられる。

 彼を見ているのは黒い髪だけで。

 まだ、ほとんど乾いていないままだった。

 ドライヤー一つ貸してやれない唐変木な自分に、そこで初めて気がついた。

 しかし、そんなことよりも重要なことが、カイトにはあったのである。

 ベッドは―― 一つなのだ。

 彼のベッドは、とにかく大きい。

 二人の人間が離れて眠っても平気なくらいである。

 触らなければ、いいのだ。

 カイトは、自分にそう言い聞かせた。

 触らなければ、さっきの手のように妙な感触につきまとわれて、イラ立つことなどないのである。

 もう一度、二度、言い聞かせる。

 そうしてベッドに向かった。

 ざくざくと歩いて。

 黒い髪がどんどん近づいてくる。

 ベッドの端に膝をかけた。

 こういう時のベッドのきしみは、イヤなくらい大きな音で聞こえる。

 気にしないフリをしながら、毛布に手をかけた。

 毛布は、一つしかないのだ。
 分け合うしかない。

 本当は、どこかを探せばもう一つ毛布を見つけることが出来るのだろうが、そのどこか、とやらを彼は知らないのだ。

 家政婦か、相棒なら知っているのだろうが。

 興味のないことには、とことん疎い生活をしているのである。

 そうして――潜り込もうとした。

 ベッドに完全に乗り上がるまでした。

 彼が毛布をめくったことにより、メイの背中がわずかに露出する。

 勿論、シャツの背中だ。

 その背中が。

 震えて、いた。

 ――!

 カイトに、何かされると思っているのだ。
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