冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 暗にアオイの話なら、いっさい聞く気がないぞということをほのめかしていた。

「昨日の書類は全部終えられましたか?」

 すぐ横に立って、しかしシュウは、教授の話は持ち出さなかった。

 手を止める。

 横を見上げた。

 首が痛いくらいに上を見なければならないことに気づいて、ムカついて顔を元に戻す。

「全部終わったぜ…次のセクションに回すもんは秘書に渡した。それ以外は、全部おめーんとこに戻ってきてるだろ」

 そんなこと、わざわざ確認したのかよ。

 カイトは、またキーボードを打ち始めた。

「そうですか…ところで、今日の開発はお忙しいですか?」

 しかし、シュウの問いかけはまだ続く。

 カイトは手を止めた。

 ギロッと睨み上げる。

 今度は、首が痛いとかムカつくとかいうことは横に投げ捨てて。

「別にいまは納期迫ってねーから忙しいことはないぜ…けど、何を考えてやがる」

 シュウは、目的のための行動しか起こさない。

 わざわざ、彼の多忙度を測るためだけに、ここに来たとは思えなかった。

「いえ、別に何でもありません。それなら結構です。お手間を取らせて申し訳ありませんでした」

 眼鏡の位置を直すと、聞くことは終わったかのように開発室を出て行く。

 その背中を、カイトは疑わしい目で見た。

 こんな暇人な問いかけをする男では絶対にない。

 本当に、何を考えてやがる。

 胡散臭さ大爆発の目で睨んでも、ロボットの気持ちは分からなかった。
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