冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 最初は、シュウがいるのかと思った。

 自室に戻った時の第一印象である。

 いたのは、ソウマだけではなかったからだ。

 もう一人、ソファに座っている。

「遅いではないか」

 しかし、いきなりそう言い放った相手を見た瞬間、カイトは目を見開いた。

 あの。

 あの――アオイ教授だったのだ。

「てめっ…!」

 ソウマを睨む。
 何という男を連れてきたのか。

「久しぶりに懐かしい話でもしようじゃないか…ほら、酒も持ってきたぞ」

 高そうなブランデーを掲げて見せるソウマ。

 そんなんで納得するかー!!!

 頭の中を、グルグル疑惑と疑問が巡る。

 そうして結論が出た。

「失礼します」

 いま、後ろから副社長が入ってきたことで、もう間違いない。

 彼は―― ハメられたのである。

 昼間、カイトの多忙度を聞きに来た時点で、もっとシュウを疑っておくべきだった。

 アオイが訪ねてくることを知っていたのだ。
 だから、定時で上がるかどうかを確認したかったのである。

 シュウは、この話を進めたいらしい。

 ということは、会社にとって余程プラスになる相手なのだろう。その見合い相手とやらは。

 そうでなければ、こんなくだらない『見合い』のために、ヤツがここまで動くはずがなかった。

「どけ!」

 カイトは、入口に向き直るとシュウに言った。

 話を聞く気などさらさらない上に、ハメられた現状に甘んじていられるはずがなかった。
 出て行こうと思ったのだ。

「まあ、カイト、落ち着け…オレはいい機会だと思ったんだがな」

 後ろからソウマの笑みを含んだ声。

 肩にポンと置かれた手が気に障って、カイトは乱暴に払いのけた。

 しかし、ちっともこたえている様子はない。

 それどころか、耳打ちするように言ったのだ。

「逃げるよりも、断ってしまった方が簡単だぞ」と。

 確かに。

 その言葉に、カイトも納得する。
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