冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●104
 後かたづけをしている時、シュウが調理場の方にやってきた。

「すみませんが…」

 その珍しい事態にメイは目を丸くしていたが、しかも彼は呼びかけてきたのだ。

 思わず、キョロキョロして他に人がいないか確認してしまったくらいだ。

「は、はい!」

 洗い物をしていた手を拭いて、彼の方を向き直る。

 どう見ても、自分に話しかけている。

「すみませんが、お茶を4…いえ、3人分用意してもらえますか?」

 こんなお願いをされたのは初めてだった。

 メイはびっくりしたけれども、頭の中で計算をする。

 ソウマ+カイト+シュウ=3人。

 きっと、仲間内でこれからゆっくり話すことでもあるのだろう。

 彼女はそう判断した。

「はい、分かりました。あの、コーヒーがいいです?」

 男の人は、どちらかというとお茶よりもコーヒーを出した方がいいらしい。

 前に勤めていた会社でもそうだったし、この間のソウマとハルコが来た時も、男性陣はコーヒーだった。

「ああそうですね。では、コーヒーをお願いします」

 シュウ自身飲み物に興味がなさそうで、口振りからしたらどちらでも良さそうだ。

「じゃあ、後で部屋の方まで運びますね…2階で構わないんですよね?」

 暗にカイトの部屋であることを示唆する。

 この人に向かって『カイトの部屋』という表現をできそうになかった。
 本人相手にも、まだ数えるほどしか『カイト』と呼んだことがないというのに。

「そうです…では、お願いします」

 締めくくって、シュウは調理場を出て行った。

 その長細い身体が見えなくなって、ほぉっとため息をつく。

 まだ、彼の存在には慣れていないのだ。

 本当に珍しいこともあるものだ。

 シュウ自身はお茶に興味はなさそうだし、カイトの頼みで来たとも考えにくかった。

 ソウマだったら自分で頼みに来そうだ。

 首を傾げながらも、指定された人数分のコーヒーを準備する。

 そして、階段を昇った。
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