冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 そんなことになってしまうよりも、まだ動いている方が幸せなのだ。

 しかし、メイが口を挟むよりも先に、白髪混じりのお客の方が、そんな二人を咎めるような口調で言った。

「大の男が、何を使用人のことで騒いでいる」

 その声を聞いた瞬間、彼女は分かった。

 彼が一体誰なのか。

 氏素性は知るはずがない。初めて会ったのだし。
 ただ、電話で聞いた声であったことは、思い出せたのだ。

 確か、昨日の朝ハルコの電話のすぐ後にかかってきた人である。

 固い言葉を使っていた人だ。

 外見と一致した声を持っている人である。

 電話の声も、厳しそうだった。

 ソウマかシュウが連れてきたとしか思えないので、共通の知り合いなのだろう。

 この人のために、お茶を入れてくれとシュウが頼んだのだ。

 きっと、大事な人に違いない。

 4人なのに3人と彼が言ったのは、たぶん自分の分は除外したのだろう。

 シュウ自身、お茶は必要じゃないだろうから。

 すべての謎が解けて、メイは少しほっとした。頭の中が整理できたのである。

 なのに。

 カイトの拳がわなわなと震えていた。

「出てけっ!!!」

 本気で怒っている怒鳴り方だった。

 その咆哮に、メイはトレイを落としてしまいそうになる。

 いつもの怒鳴りなんかとは、全然比べものにならない。

 しかし、それは自分に向いていなかった。

 あのお客に向けられたものである。

「カイト!」

 ソウマが、彼の身体を押さえる。
 まるで、殴りかかるかと心配しているかのように。

「離せ、クソ!」

 カイトは暴れるようにして、ソウマを振り払おうとした。

「クソッ! 出てけ! 誰が見合いなんかするか! オレは、ぜってー結婚なんかしねー! 二度とくんな!」

 しかし、ソウマは本気で押さえ込んでいる。

 ふりほどけないと分かるや、お客に向かって罵倒の嵐だ。
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