冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 え? お見合い? 結婚? しない?

 情報が錯綜しすぎていて、メイは処理しきれなかった。

 カイトが本気で怒っているのも、いまの怒鳴りの内容も。

 何もかも分からないまま、ただそこに立っているのだ。

「何をそんなに怒っている…」

 相手は、まったくもって理不尽な表情で近づいてきた。
 殴りかかられる理由などない、と言わんばかりだ。

「アオイ教授…今日は引き上げましょう」

 ソウマは、客の方も一歩も引かないと思ったのだろう。

 これ以上、コトがこじれないように、諫める口で割って入った。

 まだ身体は、カイトを羽交い締めている。

「何故だ。私は、この見合いの件をきちんと話すまで帰らぬ。何のためにここま…うっ!」

 威風堂々しゃべっていた――アオイ教授という男は、しかし、まだ自由なカイトの脚にけっ飛ばされた。

「信じられん! これが、一つの会社の主たる姿か! 何たること!」

 スネを見やった後、客は憤怒の表情になった。
 仕打ちに耐えられないという顔だ。

 メイは、ただ立ちつくしていた。

 お茶を持ってきただけなのに、どうしてこんな嵐になってしまったのか。

 オロオロすることさえできなかった。

「アオイ教授…」

 ソウマがなだめるような声で、もう一度言った。

「頼まれなくても帰る。こんな野蛮人に、大切な知り合いのご息女を紹介するわけにはいかぬ。たとえ身分的に釣り合ったとしても、人間としてのレベルが釣り合わぬわ!」

 雷のように怒った顔のまま、アオイは出て行きかけた。

 立ちつくしていたメイの前で一歩止まり、睨むような視線を投げつける。

 慌てて、彼女は飛び退いた。

「帰るぞ、ソウマ!」

 ドアのところで、まるで従者のようにソウマを呼ぶ。

 しかし、彼はまだカイトを押さえ込んでいた。

「車のところまで行っておいてください…すぐに行きます」

 苦虫を噛みつぶしたというのは、まさにこのことだ。

 この事態をかなり憂慮している表情で、ソウマは元凶が出ていくことを望んだのである。
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