冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ふん、と鼻息も荒く教授は出て行ってしまった。

 後をシュウが追う。

 バタン。

 ドアは閉ざされた。

 ようやく、ソウマはカイトから腕をはがした。

 もう彼は暴れたりはしなかった。

 ただ、ギラギラした怒りの目つきで、ドアの方を睨んでいる。

「お前は…」

 はぁと物凄く深いため息で、ソウマは呼びかけた。

 カイトは怒鳴りたげに彼の方を向き直るが、それより先に指を突きつけられた。

「今日ほど、お前に落胆したことはなかったぞ…自分がした発言を、もう一度じっくり考えてみろ! でないと…愛想尽かされるぞ」

 一語一語、はっきりとした口調だ。
 誤解する隙間もないくらいに、カイトにぶつけられる。

 そうして、足早にドアの方へと向かう。

 しかし、ソウマはメイの前で止まった。

「すまないな…こんなことになってしまって」

 本当に困ったような表情で、ソウマは言う。

 言いながら、冷めかけたコーヒーのカップをトレイから一杯掴むと、ぐいと飲み干す。

「ごちそうさま。それじゃあ、お騒がせしたね」

 空のカップをトレイに戻しながら、苦笑いでソウマは出て行った。

 残されたのは、2人。

 カイトは立ちつくしたままで、メイもそう。

「あの…」

 唇を動かして、掠れかけた声で彼を呼ぶ。

 何故、こんなに怒っているのか、あのアオイ教授と仲違いしてしまったのかは分からない。

 でも、きっと何か翻訳のための要素が隠れているだけで、見た目通りだけの結果ではないのだろうと思った。

 カイトが、こっちを向く。

 エネルギーを一気に消耗してしまったかのような、苦痛すら見えるような表情だった。

 ズキンと胸が痛む。

「コーヒー…飲みませんか?」


 残されたのは―― 2人と2杯のコーヒー。
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