冬うらら~猫と起爆スイッチ~
☆105
「何故、私があのような仕打ちを受けねばならぬのだ!」

 後部座席のアオイは、まったく怒り冷めやらぬ様子だった。

 それもそうだろう。

 紳士的な話し合いをするはずだったのが、その相手から非好意的な反応をされただけではなく、蹴り飛ばされたのだから。

 友好条約を結びに来た大使が、撃ち殺されるようなものである。

 プライドの高さで言えば、どの方面でもエベレスト級のアオイにしてみれば、耐え難い屈辱のはずだ。

 まったく。

 怒りたいのはソウマの方だった。

 それは、アオイへの仕打ちについてではなかった。
 あの、馬鹿野郎の馬鹿発言のせいである。

 教授やシュウからこの話を持ちかけられた時、最初は「無理ですよ」の一言で、彼の気を削がせようとしていた。

 けれども、ソウマは考えたのだ。

 この事件が、カイトにとっていい刺激剤になるのではないかと。
 内容が内容だけに、『結婚』とかいう言葉を意識させるには持ってこいだ。

 だから、こんな実現する可能性のない茶番に付き合ったのである。

 なのに。

「まだ、大学時代の時の方が文明人だったぞ」

 今や、野蛮人に成り下がったかのような発言をアオイはした。

 確かにそうだ。

 しかし、それはソウマにとっては悪いこととは思えなかった。

 大学時代のカイトは、本当に好きな女がいなかったのである。

 今頃になって、そんな女と出会ってしまったのだ。
 その事実に、ソウマは最初は喜ぶだけだった。

 だが、時がたつにつれ、首をひねるような事実にぶつかるのだ。

 一緒に住んでいながら、カイトとメイは心を交わしてさえいないのだ。

 いくらカイトが不器用なヤツだからとは言え、異常な事態である。

 あの、欲しいものは絶対に手に入れる男が。

 だから、お節介とは分かっていながらも、ソウマは首を突っ込まずにはいられなかったのである。

 お互い思い合っていないのならともかく、どう見てもあの2人は問題ナシだ。

 見ている方が、イライラするくらい。
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