冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「聞いているのか、ソウマ!」

 不平不満を聞き流されているのではないかと、アオイが彼の意識を引っ張り戻そうとする。

「勿論、聞いています…しかし、教授があんなことを言うからですよ」

 カイトをキレさせた一言を言ったのは彼だ。

「何のことだ?」

 しかし、当のアオイは一向にそれに気づいていない。

 彼は、カイトが何よりも大事にしているだろうメイについて――

「彼女のことを使用人扱いしたからですよ…」

 ため息と共に、それを口にする。

 これは、カイトも悪いのだ。

 彼女を堂々と自分の女だと言えないからこそ、あんな発言に言い返せずにキレたのである。

「何を言う!」

 しかし、鼓膜をつんざく怒声が響いた。
 キーンと、耳の中を飛行機が飛ぶ。

「電話をかけた時に、あの者が自分で言ったのだぞ。『家政婦です』と! 私は、あの声は忘れておらん! 間違いなく、あの女性のものだ。家政婦と言えば、使用人のことだろう!」

 フン。

 私は悪くない。

 ミラーで見ると、後部座席でそっぽを向くアオイの姿が見えた。

 はぁ。

 それにはソウマも深いため息をこぼした。

 そうなのだ。

 問題は、カイトだけではないのである。

 彼女の方にも問題があるのだ。

 いや、やはりこれは、はっきりしていないカイトが悪い。

 彼女の立場を中途半端にぶら下げているから、電話でそんな風に自分のことを言うのだ。

 今日の一件が瓢箪から駒になって、あの2人の関係を進展させればいいと思っていたのに、カイトときたら。

 何が、絶対結婚しない、だ。

 忌々しい発言である。

 あれを、メイの目の前で怒鳴りちらしたのだ、あの男は。

 好きな男の口からそんな言葉が出たら、誰だってショックを受けるだろう。

 それが、片思いだと本人が思っている場合は、尚更絶望的な発言である。

 そんなヒドイことを言った自覚が、しかも、あいつにはないのだ。

「「まったく…信じられん」」

 その言葉は、2人の口から同時に飛び出した。

 意味は、まったくもって違う方面だったが。
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