冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あなた…?」

 報告を、楽しみにしていたのだろう。

 帰るなり妻が玄関まで出迎えてくれたが、ソウマの様子に足を止める。

「だめだ、だめだ…まったく、あいつは話にならん」

 上着とネクタイを乱暴な手つきでひきはがし、彼女に渡す。

 この不満を、唯一分かち合える相手でもあった。

 シュウじゃ話にならないし、アオイには説明する気も起きない。
 説明した途端、余計にカイトの株を下げるだけだ。

 あの教授が、色恋について寛大であるとは思い難かった。

「教授の見合い話を断ることは、最初から分かっていたが…よりにもよって、彼女の目の前で『オレは絶対結婚なんかしない!』と怒鳴ってくれたよ」

 そのまま居間のソファにどかっと身を投げ出しながら、ソウマは天井を仰いだ。

「まぁ…」

 ハルコも、眉を寄せて。

「進展するどころか、後退もいいところだ…やれやれ」

 頭が痛い。

 ハルコがコーヒーを入れてくれる。
 ソファから身体を起こして、そのカップを掴む。

 呆然としたままのメイが甦って。

 彼女は、トレイを持ったまま立ちつくしていた。
 あの話の展開に、全然ついていけてないようだった。

 それもそうだ。

 カイトに、見合いが来たことさえ知らなかっただろう。

 その件だけでもショックなはずだ。

 大体、あそこにメイが現れるのは計算外だったのである。

 あくまで彼女はカヤの外に置いておくつもりだったのに。

 シュウが。

 あの副社長にも問題があった。

 今回の見合いの相手は、資本家の娘である。

 資本家―― それがシュウのアンテナに引っかかったのだ。

 ソフト会社が一番持っていないもの。それが資本力である。

 資本金などほとんどなくても会社が始められるのだ。
 裏を返せば、裏付けのない力ということになる。

 一度失敗したら、後がないということ。

 シュウは、その会社の弱点を補強しようとしたのである。
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