冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 自分は。

 カイトは――彼女に触れたいのだ。

 あの場所に置いておくのがイヤなだけなら、金で解放してバイバイでいいハズだった。

 なのに、連れて帰って来た。

 持て余すことなど、最初から分かっているというのに。

 手で触れるだけじゃなくって、身体中で彼女を抱きしめたいのだ。

 ま……待て。

 カイトは、狼狽した。

 こんな感じは、自分の中にこれまで一度だってなかったものだ。

 どこにあったかすら、知らなかったものである。

 そんなものがいきなり首をもたげて、切れ味のいいカマで、彼の心臓を人質に取ったのだ。

 そうして、たった今、自分に言ったのだ。

『女を寄越せ……さもなくば……』

 さもなくば?

 ズキンズキンと胸が痛い。

 人質に取られているせいだ。

 物凄い速度で鼓動を叩きつける。

 ま、待て……。

 誰も急いでいないというのに、カイトはもう一度自分に言った。

 何を、考えてるんだ、オレは。

 自分を落ちつかせようとした。

 なのに、腕も胸も彼に逆らうような感じがするのだ。

 このままベッドに入れば、たとえ離れていたとしても、自分が意思とは違う状態に追いつめられそうな気がする。

「クソッ!」

 カイトは唸った。

 ダメ、だ。

 こいつには、さわれねー! さわっちゃいけねぇんだ!

 バッと毛布を戻し、ベッドから降りた。

 こんなところで眠れっか!

 枕元からリモコンをひっつかむと、カイトはソファに向かった。

 彼が、自分のプライドとかそういうものを守るためには、そこで眠るしかないのである。

 ソファに飛び込む。

 もう、何も考えたくなかった。

 考れば考えるほど、自分の胸に当てられたカマが、深く食い込むような気がするからである。

 飛び込むなり、リモコンの消灯を押す。

 ウダウダ考えるのは大嫌いだった。
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