冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●106
 コーヒーは苦かった。

 だから、一緒に持ってきた砂糖とミルクを入れる。

 冷めかけたコーヒーには溶けにくく、彼女は何度もスプーンでかき混ぜなければならなかった。

 それに一生懸命になっていると、ふっと向かいのソファに座っているカイトが、自分を見ているような気がしてぱっと顔を上げる。

 彼は、ぷいと横に視線をそらした。

 ブラックのまま、コーヒーをあおる顎。

 甘いものが嫌いな彼にしてみれば、メイのコーヒーの作法は許せないのだろうか。

 少し恥ずかしくなりながらも、ようやく甘くなったコーヒーに口をつけた。

 お客が帰ってすっかり静かになった。

 だんだん落ちついてきたのか、カイトの怒りが引いていくのが見ていても分かる。

 シュウは階下にいるのだろうが、もう上がってくる気配はなかった。

 余ったコーヒーを、こんな風に2人で飲むことになるとは思ってもみなかった。

 メイ自身、まだ混乱が取れていないワケではなかった。

 あのお客が一体何者なのか。

 教授と呼ばれていたことを考えると、大学時代の関係者か何かなのか。

 それから、見合い。

 そして拒絶。

 いろんな情報は、水族館の中を回遊する魚のようだった。
 見えてはいるのだが、それが何の魚なのか当てることは出来ない。

 ウロコが青い光の中で閃くだけ。

 話をまとめると。

 ゆっくり息をつぎながら、メイは魚の一覧表を作ろうとした。

 あのアオイ教授という人が、カイトに見合い話を持ってきたらしい。

 ソウマとかシュウは、教授側なのだろうか?

 疑問は残るけれども、話のやりとりの中で、カイトは本気で怒った。

 元々、あの教授のことが好きではないようだ。
 最初からそんなケンカごしの態度だったし。

 そうして言った。

『オレは、絶対結婚しねー!』
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