冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ズキンッ。

 メイは、まとめた話がいきなり刃物になったのが分かった。

 それがさくっと胸に入る。

 しかし、コーヒーの続きを飲むことでごまかす。

 何を痛い思いをすることがあるのか。

 それは、裏を返せば誰とも結婚はしないと言っているのだ。

 彼は―― 誰のものにもならない。

 ちらりと、コーヒーカップの縁からカイトを盗み見る。

 飲み終えたカップを一度眺めた後、彼はテーブルの上のトレイに戻すところだった。

 そうなのだ。

 少なくとも、結婚というものをする気がないということは、カイトの彼女や妻になる人を見なくて済むということである。

 2人が楽しそうに、幸せそうにしているのを見なくても。

 きっと、それはこんな胸の痛みとは比べものにならない。

 だから、よかったのだ。

 きっと彼女にとっては、物凄くいいことな――

「おい…」

 ビクッ。

 水族館の魚に名前を付け終わろうとした時、不意に投げられた言葉は、メイの意識を震えさせた。

 ぱっと彼の方を向く。

 眉間のうっすらと入った立て皺。
 それを隠すように、大きな手が顔を押さえた。

 あっ。

 それは右手だった。

 シャツの袖口が少し下がったはずみで、見えたのだ。

 手首にはめられている銀の腕時計。

 左利きのカイトは、右に時計をするのだ。
 大きな手との対比が、彼女をドキリとさせた。

「おめーは…」

 言葉が続けられて、慌てて視線を変える。

 いまは、腕時計に見とれているヒマはなかった。

 その手の向こう側から、彼の声が聞こえるのだ。
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