冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□2
ひとしきり爆笑してから、彼女を見た。
水差しを持ったままの彼女は、もう震えてはいなかった。
たくさんの瞬きをしながら、キツネにつままれたような顔をしている。
客が煙草をくわえたら、すぐさま自分が火をつけなければならない――そんな基本さえ、彼女にはないのだ。
「とりあえず……そいつを置け」
また笑ってしまいそうな自分を押さえつつ、カイトはその無粋な水差しを奪ってテーブルに戻した。
こんなに愉快な気分は、何カ月ぶりか。
カイトはニヤける顔を落ちつかせながら、もう一度改めて彼女を見た。
何も持たされていないことで、手のやり場を失っているらしく、空中に浮いたままだった。
けれども、そんな愉快な彼女は――下着姿なのだ。
カイトは笑いを止め、目を細めた。
余りに不似合いに見えたのだ。
それどころか、痛々しいくらいに。
普通は男を喜ばせるハズのガーターベルトすら、カイトは、見てはいけないもののように思えた。
スレていないどころの話ではなかった。
酒の席で男にしなければならないことを、ホステスでなくても知っているようなことを、彼女は全然知らないのである。
この店が、本当にどういう店か分かっているのか。
じっと彼女を見ると、視線に気づいて我に返ったらしく、慌てたようにウィスキーの瓶を取った。
何か握っていないと落ち着かないのか、まだ全部飲み終わっていないカイトのグラスに注ぎ始める。
「おめー……名前は?」
ホステスに名前を聞いたのは、生まれて初めてだった。
何しろ、いつも相手が勝手に名乗っていたし、別に知りたくもなかったからだ。
「え?」
彼女が、ぱっと顔を上げる。
すぐ側の、チョコレート色の目。
カイトの胸が――音を立てた音を聞いた。
卵の薄皮が破れるような音だ。
ひとしきり爆笑してから、彼女を見た。
水差しを持ったままの彼女は、もう震えてはいなかった。
たくさんの瞬きをしながら、キツネにつままれたような顔をしている。
客が煙草をくわえたら、すぐさま自分が火をつけなければならない――そんな基本さえ、彼女にはないのだ。
「とりあえず……そいつを置け」
また笑ってしまいそうな自分を押さえつつ、カイトはその無粋な水差しを奪ってテーブルに戻した。
こんなに愉快な気分は、何カ月ぶりか。
カイトはニヤける顔を落ちつかせながら、もう一度改めて彼女を見た。
何も持たされていないことで、手のやり場を失っているらしく、空中に浮いたままだった。
けれども、そんな愉快な彼女は――下着姿なのだ。
カイトは笑いを止め、目を細めた。
余りに不似合いに見えたのだ。
それどころか、痛々しいくらいに。
普通は男を喜ばせるハズのガーターベルトすら、カイトは、見てはいけないもののように思えた。
スレていないどころの話ではなかった。
酒の席で男にしなければならないことを、ホステスでなくても知っているようなことを、彼女は全然知らないのである。
この店が、本当にどういう店か分かっているのか。
じっと彼女を見ると、視線に気づいて我に返ったらしく、慌てたようにウィスキーの瓶を取った。
何か握っていないと落ち着かないのか、まだ全部飲み終わっていないカイトのグラスに注ぎ始める。
「おめー……名前は?」
ホステスに名前を聞いたのは、生まれて初めてだった。
何しろ、いつも相手が勝手に名乗っていたし、別に知りたくもなかったからだ。
「え?」
彼女が、ぱっと顔を上げる。
すぐ側の、チョコレート色の目。
カイトの胸が――音を立てた音を聞いた。
卵の薄皮が破れるような音だ。