冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●108
「調子はどう?」

 その声に、メイはびっくりして振り返ってしまった。

 ハルコが現れたのである。

 そういえば、今日は電話が来ていなかった。

 それはイコール、彼女がやってくるということなのだが、無理をしてはいけない身体だということを踏まえて、今日も休みなのだろうと思っていたのだ。

「大丈夫なんですか?」

 調理場の掃除をしていたメイは、慌てて雑巾を置いた。

 ハルコの方こそ、人の調子を聞いている立場ではない。

「ああ、そんなに心配しないで…風邪もたいしたことはなかったし。それに、今日は仕事をしにきたワケじゃないから…家にいても退屈なんですもの。ちょっとおしゃべりに、ね」

 カイト君には内緒よ。

 そう、ハルコはウィンクをしてみせる。

「はい!」

 彼女の身体が心配ではあるけれども、来てくれてとても嬉しかった。

 その気持ちに、素直に返事をしてしまった。

「お茶いれますから、向こうに座っててください」

 流しで手を洗って、メイはお湯をわかし始めた。

「ケーキを持ってきたんだけど…入るかしら?」

 ハルコの掲げる白い小箱を見て、彼女は目を輝かせてしまった。

 ここに来てから、一度もそういう甘い物を食べてなかったことを思い出したのだ。

 カイトはケーキなどを食べる人ではないし、彼女はそんな無駄遣いができる立場ではなかったのだから。

「あの…朝食食べたばかりですから」

 でも、意地汚いと思われるのが恥ずかしくて、遠慮する言葉を選んだ。

 すると、ハルコは笑って。

「あら、入るところは別でしょう?」

 女性のために存在する無敵の発言には、メイも勝てなかった。
< 500 / 911 >

この作品をシェア

pagetop