冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「そう? それならいいのだけど…昨日も、アオイ教授とやりあったって聞くし」

 まったくもう。

 苦笑しながらも、ハルコの目がしっかりとメイを見ているのが分かる。

 いま反論した答えが、本心からなのかを探るように。

「あれは…」

 その件については、かなり耳が痛かった。

 何しろ、電話で言った発言が、尾を引いてしまったのだから。

「カイト君は、あなたを使用人だなんて思ってないから、心配しないでね」

 しかし、ハルコの方が先手を打った。

 きっとソウマから聞いていたからなのだろうが、それでもさすがに付き合いが長いせいもあって、読みが早い。

 まるで、あの場にいたかのようだ。

「はい…分かってます」

 アオイにそう言われたこと自体は、たいした苦痛ではなった。

 それよりも、自分がアオイにそう言った時の方が、少しつらかったのだ。

 自分で家政婦と言いながらも、彼との間に深い溝を感じてしまったのが。

 たとえカイトが対等に扱ってくれたとしても、いまのままではメイが上に上がれないのだ。

 彼と同じ段に。

「それと…ね」

 言っていいのかどうか迷うような口振りで、ハルコはカップを持った。

「あのね…その…カイト君が、結婚しないって怒鳴ったってことなんだけど…」

 迷う言葉で綴られると、メイの方がびくっとしてしまう。

 その件は、昨日もう決着をしたはずだった。
 彼女の心の中では。

 何を今更、蒸し返そうとするのか。

「多分、ね…アオイ教授に対抗して言った言葉であって、本心ではないと思うのよ。彼の持ってきたお見合い話に乗って結婚をしないという意味であってね…だから…」

 最後は、ハルコの方が困った顔で黙り込んでしまった。

 そうなの?

 心の中で、昨日のカイトを思い出してみる。

 しかし、はっきりと分からなかった。

 ハルコの言っている言葉が当たっているようにも思えるし、そうでないようにも思える。

 彼女の口調が自信なさげなのも、内容に真実味を与えていなかった。
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