冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 第一。

 何故そんなことを、わざわざ自分に告げるのだろうか。

「そうなんですか…あ、お茶おかわり用意しますね」

 ハルコの目の前で、その件について考えることが出来なくて、メイは慌ててティーポットを持って立ち上がった。

 何気なさを装って。

 カイトの結婚について、自分が興味を抱いているなんて思われたくなかったのだ。

 ハルコは事情をよく知らないから、別に他意はないのかもしれない。

 けれど、話がどう回って彼にたどりつくか分からないのだ。

 唯一、メイと秘密を共有している相手は、しかし、一番その事実を忘れて欲しい相手でもあった。

 いや、彼女自身が忘れたかった。

 あんな出会い方じゃなくて、もっと普通の出会いだったなら、気持ちをこんな爆弾にしてしまうことなどなかったのに。

 お茶のために少しのお湯を沸かしながら、ため息をついた。

 もっとうまく隠さなきゃ。

 自分の態度が、いま不自然ではなかったかが心配になる。

 カイトと結婚という言葉に、動揺なんかしてはいけないのだ。

 できれば。

 ハルコが言う言葉よりも、自分の解釈の方を信じたかった。

 カイトは誰とも結婚する気がないのだと。

 どんな女性も好きではなく、仕事一筋で生きていくのだと―― たとえ、それが都合のいい解釈であったとしても、いつかカイトの気が変わることがあったとしても、いまはそう信じたかった。

 考えていると、どんどん気持ちが沈む。

 こんな顔では、ハルコのいるところへと帰れそうもなかった。

 さっきの言葉が尾を引いています、と言わんばかりではないか。

 自分の頬を、ペチペチと叩いた。

 何事もなかったように。

 ガスを切る。
 一息止めて熱を飛ばしてポットに注ぐ。

 深呼吸一つ。

「赤ちゃん、いつが予定日なんですか…?」

 ポットを持って戻りながら、笑顔でメイは話をすりかえた。
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