冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□109
「うわぁ、ひでぇ降りだな…」

 開発のスタッフの一人が、イヤそうな声を上げた。

 キーボードを斜めに置いたまま入力していたカイトは、それにふっと指を止めた。

 不吉な言葉だったからだ。

 開発室は仕事の関係上、ほぼ一日中ブラインドが下ろされている。

 太陽の光は、モニター作業には向かないのだ。
 それから、一応産業スパイ防止のためでもあった。

 そのブラインドを指で押し上げて、誰かが窓の外を見ている。

 カイトが顎を向けると、外は土砂降りだった。

 朝、メイにあんなことを言ったとはいえ、彼はやっぱりバイクなのだ。

 レインジャケットは着てはきたものの、上半身を守るくらいしか能はない。

 タバコを灰皿に押しつけながら、口元を歪めた。

 いやなシミュレーションをしてしまったのだ。

 土砂降りの中に帰れば、多分濡れネズミで帰りつくこと間違いナシだった。

 そうすれば、またメイに心配をかけてしまう。

 朝は、そこまで意識が及ばなかった。

 しかし、帰らないワケにはいかない。

 せめて帰る頃に小降りになっていればいいのだが。


 そう思ったのに、空は彼の言うことなんか聞いてくれなかった。
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