冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「クソッ!」

 おかげさまで、帰り着いた時は物凄い有様だった。

 頭だけが、ヘルメットで妙に乾いてはいるものの、他の場所はもう大洪水である。

 おまけに、冬の雨だ。
 冷たさだけはピカイチである。

 いっそ雪になった方がマシだった。

 レインジャケットだけはそこで脱ぎ捨て、彼は濡れてずっしりと重くなった下半身を引き連れて家に入る。

「おかえりなさい!」

 メイが、タオルを両手に走って来ていた。
 予想通り、この雨で心配をかけていたのだろう。

 まさか、タオルまで出てくるとは思っていなかったカイトは、半ば呆然としたままそれを受け取った。

「お風呂わかしてますから…早く入って来て下さい…でないと、カゼひいちゃいます」

 心配でしょうがないという顔を、彼女は惜しげもなく見せる。

「風邪なんかひかねぇ…」

 そんな顔をさせたくなくて言った言葉は、しかし全然通じていなかった。

「お願いですから、お風呂であったまってきてください…」

 尚更、心配な表情になるだけなのだ。

 ったく、この程度で風邪なんかひくか。

 そう思いはしたけれども、カイトは彼女を置いて、ダンダンと階段を上っていった。

 メイの様子からすれば、風呂に入って来るまできっとあの顔をやめないのだ。

 背広だったものを脱ぎ捨てながら、風呂場を開けた。

 彼女が言っていたように、少し熱いくらいに風呂は沸かされていて。

 ザブンと沈むと、自分の身体が冷え切っていたことを思い知らされた。

 一気に血が巡っていくために手足がジンジンと痺れて、熱い湯の中にいるにも関わらず、さっと腕に鳥肌が走った。

 ふーっと、腹筋の内側からあふれ出す息を吐いて、カイトは濡れた手のひらで自分の顔に触れた。

 メイが、ふっとよぎる。

 毎日、彼女について、新しいことが起きるのだ。

 こんな風に雨に降られてバイクで帰ったのは初めてで。

 ある程度、シミュレーションできるようにはなっているものの、やはり本物を目の前にするとかなり違った印象がある。
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