冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 まさか、パンの買い置きなんかが出来るはずもない。

 近場にあるのは小さな個人商店くらいだ。

 メイが、米が切れていることに気づき、そこからこのパンを買ってきたとするなら、この雨の中出かけた可能性が高い。

 クソッ。

 またカイトの知らないところで、彼女は動き回っているのだ。

 その上、何と言ったか。

 明日、米を買ってくるだと?

 パンから手を離して顔を上げる。

 メイは、自分の発言の意味にも気づかずに、食事を続けていた。

 明日、晴れたとしよう。雨ならもっての他だが。

 晴れたとしても、彼女が米を一人で買いに行くとしたら、大通りのスーパーとかまで出ないとダメだろう。

 しかも、歩きで。

 そうして5キロだか何キロだか分からないが、米の袋を抱えて帰ってくるというのだ。

 ムカムカ。

 カイトは、考えが進むごとに怒ってきた。

「米なんか、今度ハルコが来た時でいいだろ」

 だから、その怒りの口調のままでそう言い放った。

「えっ?」

 米の話題が続くとは思っていなかったらしく、驚いた彼女のスプーンがカチャンと音を立てた。

「え…でも、お米がないと…」

 あたふたとしながらも、お米の価値を何とかカイトに告げようとする。

 しかし、彼は米の価値などどうでもいいのだ。

「あの…お米…もしかして嫌いなんです?」

 なのに、最後はかなり本気で心配している表情でそう聞いてくる。

 もしそうなら、いままで自分がしてきたことが、カイトにかなりの拷問を強いてきたのだと考えてしまいそうな勢いで。

 んな顔すんな!

 何をどうしても、彼女にそんな顔をさせるばかりだ。

 彼の言葉は、メイを微笑ませる力を持っていないのである。
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