冬うらら~猫と起爆スイッチ~

11/30 Tue.-1

●12
「起きてください……そろそろ時間ですよ」

 意識が、ずぶ濡れのまま池から引きずり上げられる。

 ずっしりと水を含んだかのように重く、出て来たがらなかった。

 全然睡眠が足りないと、身体が悲鳴を上げているのだ。

「いくら、あなたの準備時間でも……そろそろ限界です」

 声が近づいてくる。

 誰?

 寝返りをうった。
 あおむけになるように。

 そうして、目を開けようとした。
 でも、すぐには開かなかった。

 生まれたての子犬のように、瞼がぴったりとくっついて、ついでに意識の方向もめちゃくちゃなのだ。

「はやく……?」

 声と足が止まった。

「あなたは…誰です?」

 そう、限りなく怪訝な声で聞かれた次の瞬間。

 ぱちっと目が開いた。
 がばっと飛び起きる。

「え…あ…?」

 枕返しという言葉がある。

 起き抜けに、いろんな記憶が抜け落ちることだ。
 勿論、本当に抜け落ちているのではなく、ただ一瞬何も分からなくなるだけ。

 自分が誰で、ここがどこで、そうしていまが何なのか。

 慌ててキョロキョロと頭を巡らせた。

 ベッドの側に、誰か立っている。

 彼女は――自の名前が、メイであるということを思い出した彼女は、視線を足元からゆっくりと上に上げた。

 男。

 眼鏡が見えた。

 綺麗に撫で付けられた髪も。

 だが、眼鏡がきらっと反射してその奥が見えない。

「あなたは……誰です?」

 もう一度、彼は聞いた。

 今度は怪訝ではなく、不審そうな声である。

「あ……あの……私は……」

 そう言いかけたが、自分が何一つ説明する言葉を、持っていないことに気づくのだ。

 ここがどこで、何でここにいるのか分からないのである。

 これは、枕返しのせいではなかった。

 昨日から。

 そう、昨夜からずっと分からないままだったのだ。
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