冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あっ!」

 思わず、声を上げてしまった。

 予想外の人物がそこにいたのである。

 カイトだったのだ。

 部屋にいると思っていた相手が、外から帰って来たのである。

 カイトの方も、彼女を見るなりぎょっという顔をした。
 こんなところにいるとは、思ってもみなかったらしい。

「あっ、あのっ…お茶でもどうかと思って…」

 言い訳モードに入る。

 やはりお茶を入れてきて大正解である。

 トレイに乗せてあるそれを見れば、まあ、彼にも一目瞭然だろうが。

 カイトは訝しげな表情で近づいてきた。

 それもそうだ。

 いままで、夜にお茶をいれて来たことなんかないのだから。

 しかし、メイはそんなカイトの表情と言うよりも、その姿を見ていた。

 わざわざ、上着まで着込んで出かけているのだ。

 肩のところが少し濡れているのは、外に出ていた何よりの証拠。

 目の前までやってきたカイトは、トレイの上を見た後に、もう一度彼女の顔を見る。

 だが、無言で部屋のドアを開けると入ってしまった。

 あっ。

 そのドアが閉ざされてしまうのではないかと心配していたメイだが、開け放されたままだ。

 無言の入室許可である。
 嬉しくなって、トレイを抱えなおしながら入った。

 ただ、そこで戸惑う。

 彼をしばらく廊下で待ってしまったために、コーヒーがぬるくなっているのではないだろうかと思ったのだ。

 自分の紅茶がぬるいまでは、どうでもいいのだが。

 どうしよう。

 ここまで来ていながら、彼女は迷った。

 が。

 にゅっと手が伸びてきて、有無も言わさずコーヒーの入っているマグをつかんだのだ。

 上からがばっと。

 あっ、と目を上げると、カイトはそんな変なところを持ったまま、ずっと一口すすった。

 上着を脱ごうとしながらなので、途中でカップを持つ手を変えて。
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