冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 そのまま、ソファの方に歩いて行ってしまう。

 メイは心配になって、彼の表情をじっと観察した。

 一口飲んだカイトは、ちょっとだけ動きを止める。

 一度コーヒーを眺めた後、しかし何事もなかったかのように続きを飲み始めたのだ。上着を放り投げながら。

 すごく、嬉しかった。

 拒否もせず、入るなとも言われず、ぬるいコーヒーを黙って飲んでくれるのである。

 やっぱりカイトという人は、とても優しい人なのだ。

 トレイに自分のカップを乗せたまま、しかし、身の置き場に困った。

 勝手にソファに座るのも、図々しいように思えたのだ。

 やっぱり、このまま部屋から逃げ出そうかと思いかけた時、カイトがむっとした顔のまま戻ってきた。

 何か言われるか怒られるかするのかと思っていたら、メイの横を素通りした。
 何故、彼が出ていくのかと驚いて振り返ったら、そうではなかった。

 バタン!

 開けっ放しのドアを閉ざしたのである。

 この部屋は暖房が効いている。
 いつまでも開けていると、寒いのは明らかだ。

 カイトは、そのまままたソファに向かうと、どすんと座った。奥の方である。

 手前の方が空いている。

 暗に、そこに来いと言われているような気がして、引っ張られるように彼女は近づいて行った。

 いいのかな?

 何度もカイトの方を盗み見るけれども、コーヒーを飲む方に集中している様子で答えはくれない。

「失礼します…」

 職員室に入ってくる生徒のようなことを言いながら、おそるおそる彼の向かいの席に座る。

 カイトからのコメントは何もなかった。

 ほぉっと、メイは安堵の吐息を漏らした。

 ノーコメントということは、ここでいいのだ。

 メイは嬉しさに顔を綻ばせながら、自分のマグカップに手をつけた。
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