冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ぬるい。

 予想通りの温度だった。

 それが分かると、ますます嬉しくなる。
 カイトの優しい反応を、はっきりと感じられたような気がしたのだ。

 しかし、彼の飲み方は早かった。熱くもないコーヒーだったせいもあるのか、あっという間に飲み干されてしまう。

 トレイの上に、たん、と戻されるカップ。

 そうなってしまうと、メイはゆっくり紅茶を飲んでいられない。

 早く出て行けと言われたワケではないのだが、一人居座るのも変な話だ。

 大慌てでカップの中を片づける。

「あ、あの…それじゃあ…お邪魔しました」

 あたふたと、メイはトレイにカップを戻して出て行こうとした。

 ドアのところまで来たところで、はっとお米のことを思い出す。

 そうなのだ。それを言いに来たのである。

 振り返ると、驚いたことにカイトが自分をじっと見ていた。

 しかし、ぱっと彼は目をそらした。

 何か言いたげに見えて、メイは首を傾げる。

 お米のことを…。

 何とかそれを言おうとしたのだけれども、せっかく得た幸せなお茶の時間を、自分の手で壊すことが出来なかった。

 うまくすれば、明日もお茶を持ってくることが許されるかもしれないのだ。

 そうしたら食事の時以外でも、ほんのちょっとだけ余計に一緒にいられる。

「おやすみなさい…」

 言えたのは、それだけだった。

 今回だけはカイトに甘えようと思ったのだ。

 次からは、絶対にお米を切らしたりしない、と心に誓いながら。

 彼の返事はなかった。

 その言葉に戸惑ったような表情が見えたところで、メイはドアを出たのだ。

 ふぅっと息を吐く。

 初志貫徹は出来なかったものの、結果だけを見ればお茶を飲む時間を得られたのだ。幸せな気分になれた。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

 トレイを持って調理場の方に戻ると、そこには――米袋が3つも積まれていたのである。


 ビニールの表面が、雨粒で濡れていた。
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