冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●112
「おはようございます!」

 ダイニングの窓の中にハルコが見えたので、大きな声で呼びかけた。

 昨日とうってかわってのお天気で、メイは中庭で洗濯物を干していたのだ。シーツにパジャマに、その他もろもろ。

 それから、レインジャケット。

 最後のは、ガレージに濡れたまま転がされていたものだ。

 昨日、カイトが会社に行く時に着ていったものだろう。

 ちゃんと干しておかないと、次に雨が降った時に困る。

「おはよう…ご機嫌ね」

 ハルコは、窓を開けた。

「あ、寒いですから閉めていてください…すぐ終わりますから」

 言いながらも、ついにこにこしてしまう。

 それもこれも、あのお米のせいだ。

 カイトがわざわざ昨日の夜、買いに行ってくれたお米。

 そう思うと、彼女はもうこれからどんな顔でお米を研いだらいいのか分からなくなる。

 たかが米を研ぐだけで、どうしてこんなにドキドキしてしまうのか。

 やっぱり、どうしても、毎日、カイトを好きになる。

 苦しくても辛くても楽しくても。

 どんな理由であっても、その勢いは止まるところを知らなかった。

 カイトという存在を一つ知るごとに、ぽんと跳ね上がる気持ち。

 おまけに。

 今朝は、ごちそうさまという言葉まで来たのだ。

『うめぇ』―― その言葉をもらえるのはいつものことになっていて、それだけでも嬉しいのに、今回は『ごっそさん』という、何とも男の人らしいごちそうさまが聞けたのである。

 まさか、うめぇ以外の言葉が聞けるとは思ってもいなかったので、メイはくるくると踊りたいくらいに嬉しかった。

 洗濯物を干し終えた彼女は、屋内に戻らなければならないのだが、ハルコにこの心を悟られないようにしなきゃ、と戒めるのが大変だった。

 何度も何度も遠くを見たり、思い出さないように自分を操作しながら、ようやくダイニングへと戻ってくると

「寒かったでしょ?」

 ハルコがお茶を入れてくれていた。

「いえ…身体を動かしていたら、そんなに寒いなんて感じないですよ」

 言いながら、ああいけない、と自分に禁止事項を渡す。

 また、表情が無駄に綻びそうになったのだ。
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