冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あっ、あの…昨日は雨で、お米がきれて…それで!」

 メイは、うまく回らない舌を動かしながら、分かってもらおうとした。

 そういうのじゃないのだと。

 しかし、一体どういうのと誤解されているのかさえも、よく分かっていなかった。

 ただ、この気持ちが分かる材料にならないようにと必死だったのである。

「それで、優しいカイトくんがお米を買いに出てくれたわけね?」

 内容的にはまったく問題がないのだが、ハルコの口調には深みがあるので、もっと複雑なことをたくさん隠しているような気がする。

 いつもの微笑みなのだが、こうなると疑心暗鬼になってしまって、違う気持ちを表している笑みにも見えた。

「それとも…一緒に買い物に行ったのかしら?」

 途中まで合っていた話の道筋が、すっと逸れ出す。

「ち、違います! 私、知らなかったんです!」

 買いに行ってくれてるなんて。

 買ってきてやる、とは言われた。

 でも、それがまさか昨日だなんて思いもしなかったのだ。

 気づいたら、ここにお米が3袋。

「まるでカサ地蔵ね…」

 結局、事情のほとんどをしゃべらされてしまった。

 ハルコは、笑いをこらえられないように肩を震わせている。

 カイトが、からかわれる材料を作ってしまったような気がして、心配になってしまった。

「あなたは、どこかで雪のお地蔵様に、カサをかぶせてあげたのかしら?」

 まだ微笑みを止められないまま、ハルコが意味深なことを言う。

 メイは、それにうつむいてしまった。

 カサをかぶせてもらったのは、彼女の方だったのだ。

 雪の日ではなかったけれども、あんな格好のメイに背広の上着を着せかけてくれた。

 最終的には毛皮になってしまったが、あの時のことは忘れない。

 恩返しをしなければならないのは、自分の方なのに。

 せいぜいご飯を作って、身の回りのお世話を、ほんのちょっと出来る程度だ。

 しかも困ったことに、カイトがイヤがるので、堂々とできないのである。
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