冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 今にして思えば、毎晩コーヒーをいれる理由もなかった。

 昨日だけ、たまたまと考えた方がしっくりいくだろう。

 カイトは、パソコンの電源をそのままに立ち上がる。

 自分が、いやに落胆しているのが気に入らなかった。

 彼女に来て欲しかったのだ。

 普通なら、そんなくだらない時間なんか欲しくもない。

 けれども、メイが持ってくるものなのだ。彼のために。

 そう思うと、ネクタイや朝食と同じ扱いになってしまう。

 彼のための労働だけは、どうしても拒否が甘くなるのだ。

 結局、メイが来る様子はなく。

 自分の気持ちをため息でごまかして、風呂場に向うことにした。

 乱暴にドアを開けて、脱衣所でシャツを脱ぐ。

 ボタンがまどろっこしくて脱ぐのも着るのも嫌いなそれだ。
 ベルトに手をかける。ジッパーを下ろす。

 コンコン。

 ノックがあったのは、そんな時だった。

 脱衣所のドアが、完全に閉まってなかったので聞こえたのだ。

 カチン。

 思わず、カイトは動きを凍らせてしまった。

 すっかりあきらめていた存在が、現れたのである。

 しかし、もしかしたらこういう時は、フェイントでシュウの可能性もある。

 いつも彼の期待をうち砕いてくれる邪魔者だ。

 疑惑が払えないが、一応ジッパーとベルトを元に戻す。

 そこらにあるトレーナーをひっつかみながら部屋に戻った。

「誰だ?」

 両方の袖を先に通しながら、ドアに向かって誰何する。

 シュウなら殺してやる、とか思いながら。

 ドアは言った。

「メイです…あの、お茶を」

 ガッチーン!

 その声を聞くやいなや、またカチカチに凍ってしまう。
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