冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あ!

 メイは、見た。

 ドアから出てきた人間を映した瞬間、昨夜自分の胸が覚えた二回の鼓動を聞いた。

 彼は――バスルームから出てきた。
 バスローブ姿で、タオルをかぶったまま。

 何気なく歩いていたその足が、ぴたりと途中で止まる。

 グレイの目が、ベッドの方に注がれていた。

 怪訝そうな目。

 その表情が、直後、一気に眉を寄せた。

「何やってやがる!」

 カイトは、かっと目をむいてタオルを投げ捨てるやいなや、物凄い勢いで駆けてくる。

 メイは、びくっと身体を硬直させた。

 また、何か気に障ることをしたのだ。

 そう思ったのである。

「てめ…何してやがる!」

 しかし、次の怒鳴りは自分にではなかった。

 慌てて顔を上げると、携帯電話を持っていた男が、カイトに胸ぐらを引きずり降ろされるように引っ張られていた。

 カイトより背が高い男の頭を、強い力で自分と同じ高さまで落としているのだ。

「不審な人物がいたので、警察に通報しようとしていたところですよ」

 しかし、相手はまったく怯まない。

 まるでそれが義務であると言うかのように、真実を曲げもせず答える。

「ヨケーな真似すんじゃねぇ!」

 ばっと胸ぐらを突き飛ばしながら、またカイトは怒鳴って。

「ここは、オレの部屋だ。オレの部屋に誰がいようと、おめーがケイサツに通報する必要はねぇ!」

 指を突きつけるようにして、マシンガンのごとくわめき立てた。
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