冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「ち、違います! ただ、何となく…新聞を読まれてるところを見たことがないので」

 誤解がないように注意しながら言葉を発した。

 別に、メイは新聞好きというワケではないのだ。

「新聞は会社に来るようになってる…あと、ニュースはネットでも見られる」

 言い終わるや、みそ汁がずずっとすすられた。

 ちゃんとした言葉で答えてくれるところを見ると、怒っているような様子はなかった。

 内容にというよりも、その口調にほっとする。

「そうなんですか…」

 安堵がそのまま声に出てしまったのか、カイトがもう一度顔を上げた。

 視線がぶつかる。

「あのっ! ホントに新聞が好きというわけじゃないんですよ…家でもテレビ欄くらいしか見てなかったですし…」

 何を一人でペラペラ言い訳をしているのか。

 最後の辺りは恥ずかしくなってしまって、声を途切れさせてしまった。

 シーン。

 いつも静かだけれども、今日の沈黙はメイには痛かった。

 やることなすこと空回りしているような気がしてしょうがなかったのだ。

 気をつけないと、こういう日は転ぶのである。

「ごっそさん…」

 言ってカイトが立ち上がってくれたのは、ある意味救いでもあった。

 この、どうしようもない静けさの中から解放されるのだ。

 慌てて立ち上がり、ネクタイを結びに行く。

 ドキドキが、身体からこぼれてしまわないように気をつけなければいけない瞬間でもあった。

 今日は特に、空回っているから要注意である。

 丁寧に結び終えて。

「いってらっしゃい」

 笑顔で送り出す。

 彼の姿がドアの向こうに消えた後―― ほぉっと深い吐息をついた。

 ああよかった、と思ったのだ。

 あれ以上の失態をせずに済んだのだ。

 数十秒後。


「オレはバイクで行くっつってんだろ! てめーは一人で車ででも行きやがれ!」


 怒鳴ってる声が聞こえて、メイはびくっとした。

 しかし、その後クスッと笑ってしまう。

 声だけで、玄関で何が起きているか分かってしまったのだ。
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