冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●116
 あっ!

 メイが驚いた時には、カイトの箸からハンバーグが丸ごと転げ落ちた。

 彼も、反射的にぱっと下を向いたが、その後にイヤそうな顔になって箸を置く。

 最悪なことに、床まで落ちてしまったのだ。

 カイトは、がたっと椅子を引く。

「あっ! 私、片づけます!」

 と言って立ち上がったのだけれども、時はすでに遅かった。

 カイトは、素手でそれを拾い上げたのだ。

 拾い上げたはいいが、今度はそれのやり場に困ったように顎を巡らせている。
 ハンバーグソースをかけているので、うかつなところに置けないのだ。

 メイは、たたっと調理場まで走って、別の小皿を取って帰ってきた。

 それを持って行くと、何とも言えない表情のまま、その皿の上にハンバーグだったものを乗せる。

 ふぅ。

 彼女は、小さなため息をついた。

 一口も食べられていないそれを、残念に眺めて。

 おいしくできたので味わって欲しかったのに、こんなことになってしまったのだ。

 事故とは言え、本当に残念である。
 だが、いつまでもそうしているワケにはいかない。

「ちょっと待っててくださいね…タオル取ってきますから」

 カイトに指は、ソースで赤く汚れているのだ。

 そのままでは、食事を続けられない。

 落ちたハンバーグを持って調理場の方に戻りながら、彼女はタオルを捕まえた。
 さっき、小皿と一緒に取ってくればよかったと思いながら。

 けれど、タオルを持っていくまでもなかった。

 カイトが、調理場の方に入ってきたのである。
 えっと思って見ていると、彼は流しで手を洗った。

 その方が早いと思ったのだろうか。

「あ、はい…」

 水を止めたカイトに、タオルを差し出す。

「……」

 カイトは、彼女から視線を逸らしたままタオルを受け取って。

 ハンバーグを落としてしまったことで、機嫌が悪くなってしまったのだろうか。

 じっとその様子を見ていると、拭き終わったタオルをその辺に置いて、カイトは背中を向けた。

「わりぃ…」

 背中が、そう言った。
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