冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 切り終わった後、包丁を戻しに一度調理場の方に戻る。

 帰って来たら、カイトは箸を持ったまま呆然と彼女の方を見ていた。

 そんな彼に、にっこりと笑う。

「今日のハンバーグは、とってもおいしいんですよ」

 そうして、お皿を持って彼に近づく。

 先手を打ってそういう風に言うのは、『いらねぇ!』と拒否されるのを防ぐため。

 こんな空気の中で、一人だけハンバーグを食べたくなかったのだ。

 同じものを同じように共有したかった。

 それに、カイトにもちゃんと食べて欲しかったのだ。

 罪悪感も、どこかに捨てて来て欲しかった。

 いろんな思いが、溢れるように巡っていく。

「ホントに、ホントにおいしいんですよ」

 こう言いながら、さっと半分のハンバーグを彼のお皿に乗せて戻る。

 あんまりモタモタしていると、本当に拒まれそうで怖かったのもある。

 自分の料理をここまで言う必要はないが、逆にここまで言えば、カイトだって食べざるを得ないだろうと思ったのだ。

 席に戻ってカイトを見ると、どうしたらいいのか分からない戸惑った顔をしていた。

 だから、もう一度メイは笑って言った。

「いただきます」、と。

 2回目のいただきます、だった。
< 540 / 911 >

この作品をシェア

pagetop