冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトは、しばらく戸惑ったままだった。

 メイは食事を再開していて。

 彼が、じっと自分の方を見ているのが分かった。

 あえて気づかないふりをして、食べ続けた。

 そうすることで、自分がこの事件について深く思っていないことをアピールしたかったのだ。

 半分こにすることなんて、何でもないのだと。

 ようやく、箸が動く。

 メイは、それに緊張した。

 けれども、それを表に出さないように、向こうの方を見ないように努めた。
 カイトの行動を、止めたくなかったのだ。

 彼は、今度は落とさずにハンバーグを掴んで、かぶりついた。

 半月の形をしたハンバーグに。


「うめぇ…」


 その声を聞いた時、胸がきゅーっとなった。

 いつもよりも、もっともっと違う思いがぎゅーっと詰め込まれていたのだ。

 それが、はっきりと分かった。

 だから、こんなにまでも胸を締め付けるのだ。

 彼と食事をすると、自分の作った料理が、どれもこれも特別なものに思えてきはじめる。

 こんなことは、いままでなかった。

 確かに父親も、メイに感謝はしてくれたし、ちゃんと残さずに全部食べてくれていた。

 けれども、一つ一つの料理がこんなにまでも特別な感じはしなかったのだ。

 カレーも、みそ汁も、ご飯も、たかがサラダであったとしても、カイトに食べてもらえると思ったら、彼に「うめぇ」と言ってもらえたら。

 それだけで幸せになれる。

 誰かのために食事を作ることが、こんなにも自分の幸せにつながるとは思ってもみなかった。

 ずっと、彼のために食事を作り続けられたら―― 夕食の間中、そう願って止まらなくなった。


 結婚しない、と言った言葉が本当であると、信じたかったのだ。
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