冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ゆっくりとコーヒーを飲む。

 彼女は、向かいのソファにいる。

 昨日と同じ時間のように思えるが、今日の気持ちはまた違っていた。

 コーヒーまでも、胸にしみこむのだ。

 ハンバーグのことは、これ以上言及したくなかった。

 だが、まだ胸に刺さっている。

 だからといって、どんな言葉で伝えたらいいかも分からない。

 きっとどう言っても、彼女は笑って『気にしないでください』というのだろう。

 自分のパソコンに例えるなら、作ったプログラムを消去されてしまうようなものだ。

 彼なら、あからさまに怒るに違いない。

 けれども。

 メイになら、たとえ消されてしまっても怒らないんじゃないかと思った。

 気持ちが、どんどん違う方向に流されていく。

 好きというだけで、こんなにまで自分が変わるものなのか、信じられないくらいだった。

 しかしもう、あらがえない。
 彼女の引力に引っ張られる。

「そう言えば…明日、ハルコさんが遊びに来ると言ってました」

 そっと。

 お茶の時間を壊さないようにするような、小さな声でそれが告げられた。

 静かだからこそ、カイトの鼓膜にまで届く音だ。

 内容に、ぴくっと耳が反応する。

 ハルコが?

 彼女でいっぱいだった心が、すっと地上に戻ってくる。

 現実的な言葉のせいだった。

「あの…ソウマさんはお仕事だそうなので、一人で…その、お茶にいらっしゃるということなんですけど…」

 許可を取るような目だ。

 週末にお茶というくつろぎの時間を取っていいかどうか、許可を求めてきているのである。

 茶ぁくらい、飲めばいいだろ!

 パン、と心が跳ね上がる。

 好きなことを好きな時にすればいいのだ。

 メイは、しなくてもいい労働ばかりをやりたがる。

 それが気にくわなかった。
< 543 / 911 >

この作品をシェア

pagetop