冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「んなこた、言ってねぇ!」

 そうして、ついに―― 怒鳴ってしまった。

 この口の悪い病気の一つだ。

 言葉が見つからずにイライラしてくると、すぐこうなってしまう。

「そうじゃ…ねぇ」

 ぐっと、その勢いをこらえて横を向く。

 町を育成するシミュレーションゲームを作ったことがある。
 出来るだけリアリティのあるようにするために、たくさんのパラメータを導入した。

 いまをそのゲームで例えるなら、『貧富の差がありすぎます』と言ったところか。

 心豊かな彼女に比べて、自分の貧しい内側がイヤになる。

 女一人を住まわせるには、窮屈で汚く思えるのだ。

 こんな家に遊びに来いなんて、言えるはずがない。こんな家に住めだなんて。

「明日は…仕事なんかしなくていい」

 それが精一杯のフォローだった。

 せいぜい、閉めっぱなしだったカーテンを開けて、太陽の光を入れる程度のフォローだったけれども、その光を、彼女はちゃんと拾ってくれた。

「ありがとうございます…でも、ご飯の支度はさせてくださいね。私もおなかがすきますから」

 笑う。

 くすっと。

 しかし、すぐにその表情が、あっ、というものに変わった。

「明日…お仕事はあるんでしょうか?」

 あまり意識をしていなかったが、そういえば明日は土曜日だ。

 いまひとつ、一週間のサイクルがつかめないでいる。

 彼女が来て2回目の週末なのだ。

 いろいろ考えた。

 と言っても、二択にすぎない。

 会社に行くか行かないか、だ。

「土日は…休みだ」

 カイトは、決着をつけた。

 仕事に行くと―― 彼女がたくさんの労働をするような予感がして、こげ茶の髪の毛が引っ張られたのである。

「そう…ですか」

 でも、ちょっとだけメイが嬉しそうな表情をしたように見えた。

 気のせいかもしれない。
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