冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 これでも大学は卒業したのだ。

 なのに、経済関係の本をちょっと読んだだけで眠ってしまうなんて。

 ああ…。

 誰も見ていないと言うのに恥ずかしくて、彼女は頬を赤くした。

 そうして、またキチンと枕元に本を積み直す。

 結局、これは読破せずに返すことになってしまいそうだ。

 もしも、シュウに感想なんかを求められたらどうしよう、と少し青ざめたけれども、彼がそんなことに興味を示すとも思えなかった。

 もそもそと、毛布の中で丸くなったり伸びたりする。

 毛布から足がこぼれた時、すごく冷たくてぱっと引っ込めた。

 今日も、寒いようだ。

 どうしよう。

 起きるのは簡単だ。

 けれども、起きてしまってもすることがないし、さっきの本が、彼女には合わないことも一目瞭然だ。

 こうなると、何か考えたりすることでしか時間を使うことが出来ない。

 クスッ。

 一番最初に思い浮かんだのは、一昨日の夜のこと。

 よぎった瞬間に、笑ってしまった。

 カイトのトレーナーだ。

 お茶の時間に部屋に伺った時、メイは違和感を覚えた。

 カイトが、上はトレーナー、下は背広のズボンという出で立ちだったのだ。

 もしかして、着替え中にお邪魔したんじゃ。

 そう思ってしまうような姿である。
 とりあえずお茶を飲み始めたら、また違和感がある。

 今度は何かと思ったら―― カイトのトレーナーが、後ろ前だったのだ。

 なのに、彼は小難しい顔をしたままコーヒーを飲んでいる。

 言おうかどうか迷ったのだ。

 しかし、そんなことを指摘されたら、すごく恥ずかしいのではないかと思った。

 もう、多分外に出かけたりはしないだろうから、他の人に見られることはない。

 結局、メイは言わずにいたのだ。

 あれは…自分で気づいたのかな。

 翌日、そのトレーナーは洗濯かごの中だった。

 全然汚れている風には見えなかったけれども、せっかくなので一緒に洗う。

 洗う時も、干す時も、取り込む時も。

 何となくそのトレーナーを見ると、顔がゆるんでしまいそうだった。
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