冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□119
 どうして、こうなる?

 カイトは、二種類の意味でそんなことを思った。

 一つ目は、いま自分がダイニングの席に座っていること。

 上着を着てないので、まだ暖房が効ききっていないこの部屋では、寒いことこの上なかった。

 同時に、いつもここが暖かい部屋だったことを、思い知らされるのである。

 メイが、朝食の時に暖めてくれているのだ。

 上着を着ていらしていいですよ、みたいに言われたが、ついヤセ我慢をしてしまった。

 わざわざ二階に上がって上着を着て、また下に来るというのは、この朝食に物凄い意気込みをかけているように思われそうでイヤだったのだ。

 この格好なら、たまたまやってきたという言い訳がききそうだった。

 朝。

 彼が、まだベッドの住人だった時。

 ドアの外で、人の歩く音がした。

 大きな音ではない。

 それどころか、気をつけて歩いている、という風だった。

 普通なら、そんな音は気にもならない。
 耳にも入ってこないだろう。

 だから最初は、全然意識していなかった。

 彼は眠りの水の中に、まだ半分以上頭を突っ込んでいる状態だったのだ。

 しかし、意識の中の糸電話が何かを伝えてきたのだ。

 ビクンッ!

 カイトは飛び起きた。

 今のは!

 さっきの足音から、どれくらいたったのかは分からない。

 ちょっと眠ったのか、それとも、もう結構な時間がたったのか。

 時計を見ると、まだ十時。

 あの足音は、夢でなければメイのものだろう。
 ということは、彼女は階下に下りたのだ。

 こんなに朝から起きて、何をしようってんだ。

 甦るのは、先週の記憶。

 床にはいつくばるようにして、掃除をしていたあの姿である。

 まさか。
 また。

 カイトは、寝起きの重い身体をベッドから引きずり下ろした。

 そして、ダイニングまで来てしまったのである。
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