冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「ほら…カイト君が怖い顔をしているから、彼女が心配してるじゃない」

 せっかくのケーキが台無しよ。

 はぁ、とため息をついたハルコは、開けられたままだったケーキを一つ取って小皿に乗せた。

「はい…モンブラン。大丈夫、イチゴも取っておいてあげるから」

 食欲よりも心配が先にたっているメイに、お皿が回ってくる。

 ちらり。

 カイトを見る。

 本当に、ここでケーキを食べるのが正解がどうか分からないのだ。

 そうしている間に、彼女は自分の分も小皿に取る。

 ハルコの視線がカイトを見て、目だけで『食べる?』と聞いた。

 ぷいっと、顔をそむけるのが返事で。

 勧められるのも、ゴメンという感じだ。

「それじゃあ、いただきましょうか…」

 ハルコの方は、ためらう素振りもない。

 ケーキを保護しているセロファンを取ってしまうと、すっとフォークを入れたのだ。

 どうし…。

 どうしよう―― そう思いかけた、メイの心の上に、音がかぶった。

「食え」

 えっ?

 いま、どこから声が聞こえたのか。

 メイはぱっと顔を上げて、キョロキョロした。

 男の声だ。

 この中で、男と言えばただ一人である。

 声も間違いなく彼のものだった。

 カイトだ。

 彼は、頭を抱えるように前髪に手を突っ込んだままだった。
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