冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□13
 ガン。

 後ろ手でドアを閉めながら、カイトは廊下に立った。

 室内とはうって代わって、とんでもなく寒い。

 当たり前だ。

 もう11月も終わりで、しかも今は朝なのだ。

 寒くなっていて当然である。

 天気のいい昼間とはワケが違った。

 ぶるっと、カイトは首筋を震わせる。

 立てたままの襟で、まだ言うことをきかないネクタイを何度か触ろうとしたが、結局やめた。

 どうせ、いま締めたとしても窮屈なのだ。

 必要になった時だけ締めればそれでいい、と思ったのである。

 こんな格好は、本当に大嫌いだった。

 だから、昨夜のような憂さ晴らしをしてしまうのである。

 昨夜の――

 階段を下りかけたカイトは、ふと足を止めて振り返ってしまった。

 さっき自分が出てきたドアである。

 これから出かけなければならず、時間ももうそんなにない。

 けれども、後ろ髪が引かれてしょうがなかった。

 何を、考えてんだ!

 いまから、カイトは仕事で。

 ネクタイを締める仕事の時は、他社が絡む対外的な仕事だということだ。

 余程重要なものでなければ、面倒なので相棒――シュウ一人に行かせるのだが、時々あの男は、「これは社長が出るべきです」と言って譲らない。

 それが、今日だった。

 昨日でもあった。

 ハードメーカーが、新しいハードを作成して販売することが決定し、新発売の時に合わせて、彼の会社から対応ソフトを出せというのである。

 要するに、ソフト欲しさにハードを買わせるというやり方だ。
 事実、それはいろんなケースで実を結んでいる。

 誰も、ハードの能力が欲しいワケではないのだ。

 楽しいゲームをしたいだけなのである。

 ここで、新ハードの性能とやらを、カイトも見抜いてこなければならなかった。

 まだ、その馬に乗ると決めたワケではないのだから。
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