冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 怒鳴らないということは、大丈夫というのが分かってきた。

 どこまで彼が譲歩しているのかは分からないけれども、とりあえずいままでの経験からいけばそうである。

 変な風に思われていなければいいのだけれど、とメイはまだ心配をしていたが。

 二口目を食べる。

 カイトは、ようやく目を開けた。

 大きな手が、無造作に伸びてコーヒーのカップを掴む。
 いつも夜に使っているマグカップだ。

 自分もそうで。

 ハルコはお客様なので、ティーカップを出している。

「あら…」

 ハルコが自分のカップを見た後に、2人のそれと見比べた。

「確かそれ、私がカイト君とシュウにあげたカップよね」

 何気ない口調だった。

 ええー!!!!!

 しかし、メイはびっくりだ。

 まさか、そういういわくつきのカップだとは思ってもみなかったのである。

 食器棚に入っていたのを、適当に出してきただけなのだ。
 青ざめている彼女に、カイトはちらっと視線を投げてきた。

「覚えてねぇ…んなの」

 視線は、すぐに他の方へ行く。

 関係ねーだろ、とでも突っかかりそうな声だ。

「まあ、そうよねぇ…思えばシュウがコーヒーを嗜むとも思えないし…でも、それを言うならカイト君もよね。自分じゃ、めったにコーヒーなんかいれて飲まないでしょうし」

 使われてるの、初めて見たわ。

「確か、そっちのがシュウのよね」

 メイのは白いマグ。
 カイトのは青いマグ。

 男の人だから、と思ってカイトに青いマグを使っていた。

 そうして、ハルコが指したのは―― カイトの持っているカップだった。

 ということは。

 メイは、カイトがもらったマグカップで飲んでいたのである。

「覚えてねぇっつってんだろ! 大体、何年前の話だ!」

 カイトは、ついに大声で怒鳴った。

「あら、ごめんなさい…大丈夫よ、きっとカイト君もシュウも、一度だってそのカップを使ったことなんかないんだから、新品同然よ」

 カイトの怒鳴りよりも、妊婦は隣のメイを見てフォローしてくれたが、彼女はまだ固まったままだった。
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